食べるクスリ
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■覆盆子[ふくぼんし:御所苺:野イチゴ:木イチゴ]
さて一般の店先に並ぶイチゴが草、草本であるのに対して、野イチゴも草本みたいですが、低く地を匍う蔓状ながらも木本で、バラ科キイチゴ属Rubus(ルブス)というグループにまとめられる木イチゴなのです。野イチゴが梅、桃、杏、枇杷などと同じバラ科といわれてもピーンときませんが、草刈りをするときの手強さは野バラと同じなので、そっちのバラなら得心できます。ルブスとはもちろん“深紅”という意味です。
木イチゴには、御所苺(ゴショイチゴ)の他に、ナガバモミジイチゴ、エビガライチゴ、クマイチゴなどが山野に自生し、これらを品種改良したものが、ブラックベリー、ラズベリーなどです。
生薬名の覆盆子は、ゴショイチゴなどの木イチゴの未成熟果実につけた名称です。
中国の古医書には「これを食べれば、腎虚がなおり小便の回数が減る。それで不要になった尿瓶(盆)を伏せて置いておく。だからこの木イチゴを覆盆子と云うのだ」とあります。このように覆盆子には、
補腎補肝の作用があり腎虚に効くということで、最近の韓国テレビドラマの影響もあって覆盆子ジュースのブームになっています。
この季節になるべくまだ未熟の赤くない果実をたくさん採取してよく乾燥してから煎じて服用したり、薬用酒にするのもよいでしょう。
■光慈姑[こうじこ:甘菜(アマナ):山慈姑:クワイ]
甘菜(アマナ)は日本の福島以南、朝鮮半島、中国に広く分布するユリ科の多年草です。
このアマナはユリ科の中でもチューリップにもっとも近縁で、いわばチューリップの野生種といえます。その球根(鱗茎)はニンニクやノビルなどと異なって味が甘い。そこで「甘菜」。
この鱗茎をばらばらに剥がして乾燥した生薬を光慈姑、一般に山慈姑といいます。慈姑とは、お正月に食べるクワイの中国名。母根に子根(クワイ)が付着している様子を、赤子を慈しんで乳を与える嫁(姑)になぞらえた命名です。
良質なデンプンに富み、栄養豊かなクワイは水性植物の根ですが、山野に生える同様に栄養豊かな甘菜に、山の慈姑と名付けたのでしょう。日本でもアマナの別名は「ムギクワイ」ですが、中国名「慈姑」由来でしょうか?
このように片栗に似た良質なデンプンに富み、味もよいので、鱗茎は焼いたり茹でて食用にされます。またグラニュー糖と焼酎に漬け込めば滋養強壮のアマナ酒。
薬効成分としては、チューリップのチューリピン、イヌサフランのときに紹介したコルヒチンなど、薬理活性のつよい各種のアルカロイドを含みます。
漢方的には、清熱解毒・散結などの作用が知られています。
炎症を冷まして毒を除き、堅まりを散らすという意味で、皮膚の腫れ物、蛇や虫の咬傷に、また 頚部リンパ節や耳下腺の腫れなどに外用薬としても内服薬としても使われます。体の中の堅まり=食道ガンや乳がん、リンパ肉腫などへの応用も研究され、それらに用いる処方に配合されます。
■枸櫞皮[クエンヒ:檸檬(レモン) 皮:香櫞:仏手柑]
漢方的には芳香性の健胃剤として胃腸の動きを整え、肺に貯留した痰を排出する働きがあります。
■貫衆[かんじゅう:狗脊(くせき):ワラビ:ゼンマイ]
食用にするのは日本だけで、世界的にみればシダ植物の根は古来、薬草として使われてきました。
例えば古代ギリシャの「ディオスコリデスの薬物誌」には、数種類のシダ植物が登場していますが、例えば条虫を排出する駆虫剤として利用されたプテリスはセイヨウオシダ(西洋・雄羊歯)のことだと云われています。
中国漢代に成立した『神農本草経』に記載されている「貫衆」と「狗脊」もシダ植物で、同じ薬効をもつ何種類かのシダのことだと云われていますが、だいたい貫衆はゼンマイ科のゼンマイの根茎、狗脊はタカワラビ科のタカワラビの根茎といってよいでしょう。狗脊とは、犬の背骨という意味で、その根茎の形から連想されてもののようです。ともに駆虫作用や筋骨を強めるはたらきがあります。
■ドクダミ[十薬:重薬:魚腥草:蕺菜(じゅうさい)]
花の時期に根や花もふくむ全草を収穫し、炙ったり揉んだりして、皮膚の湿疹やおでき・水虫などに外用薬として、痔の座浴剤として用いる。蓄膿症には汁を滲ませた葉を鼻に挿入する等。
乾燥すると、薬効成分であり、強烈な臭い成分であるアルデヒド類が酸化して臭いが消えてしまうが、梅毒などの解毒剤として五物解毒湯などに配合されました。
ドクダミ茶は、家庭でも採取してきたドクダミをよく洗って乾燥しておけば気軽にできる。ほのかに苦みのあるさっぱり感が私は好きです。お正月、ご馳走つづきのあとの胃腸には最適かも。
■夏枯草[かごそう:ウツボ草:白毛夏枯草:イシャダオシ]
日本全域、アジアに広く分布するシソ科の多年草。日当たりのよい林野や道端によく自生しています。初夏に咲いた紫色の花が、真夏にまだ葉が青々としているときに、急に褐色に枯れたようになるので、夏に枯れる草。
この褐色の花穂は、武士が矢を入れていた、革製の筒状の矢入れ=靫(うつぼ)に色も形もよく似ているので、別名ウツボ草。
この花穂が漢方薬として、さまざまな熱症状を冷ます=清ます、つまり清熱剤に分類され、血圧を下げたり、リンパ腺や甲状腺などの瘰癧に使われます。民間的には花穂の色が変わりかけた頃に採取して乾燥して煎じ、浮腫に効く利尿剤として用いられてきました。口内炎や喉の腫れには、この煎じ液でうがいをします。
昔の子供達は路傍に咲くこの花の蜜を吸って「スイナスイナ」と呼んだそうです。暑気払いには葉をお茶として飲みます。
同じシソ科で、キランソウは葉に白毛が目立つので、名前もよく似た白毛夏枯草。ジゴクノカマノフタ=地獄の釜の蓋というすごい別名があります。病人が行きそうな地獄に蓋をして現世に連れ戻す、ということらしいですが。またの名をイシャダオシ=医者倒し。切り傷によく効く民間薬で、全草を絞って汁を傷にすりつければ、医者を呼ばなくても傷は治ってしまうという意味。中国でも金瘡小草と呼ばれます。金瘡とは包丁や刀による傷のことです。
これらのシソ科の薬草は、ヨーロッパでは“セルフヒール”と呼ばれるハーブです。セルフ=自ら、ヒール=治癒、つまり自然治癒ですから、これも医者倒しと同じ意味ですね。
■菝葜 [ばっかつ:猿捕茨:サルトリイバラ:山帰来]
サルトリイバラの話をする前に、山帰来:サンキライの説明から。中国では「土茯苓」と呼ばれ、日本ではケナシサルトリイバラと呼ばれる、ユリ科のツル性の落葉低木があります。これは中国に広く自生分布しますが、日本には自生しません。
この根茎が土茯苓といわれる生薬で、1492年のコロンブスの新大陸発見以降、またたく間に世界に蔓延した梅毒の治療薬として頻用されました。
江戸時代の医書に「梅毒の重症患者は山に捨てられる風習があったが、土茯苓を服用すると治癒し、山から帰って来たので“山帰来”とも名付ける」とあります。江戸時代の日本にも輸入されていたのです。
ところが、ヨーロッパにもたくさん輸出されて品薄となり、日本で代用薬として用いられたのが、今回のサルトリイバラです。
こちらは、日本全土、朝鮮、台湾、中国大陸と広く分布します。これもユリ科のツル性の、上記の土茯苓=山帰来とよく似た植物ですが、節があって折れ曲がる茎に、棘があるのが違いです。猿が通ろうにも茂ったトゲのあるツルに捕まってしまうので、猿捕茨です。それに対して輸入ものには棘がないから「ケナシ」をつけたサルトリイバラと名付けたのです。
この猿捕茨の根茎が日本の梅毒治療薬として定着したのです。ですから江戸時代の医書にたくさん書かれている土茯苓や山帰来が、輸入物なのか、国産のサルトリイバラの根茎=漢名は菝葜(ばっかつ)を指しているのかは判然としません。根茎の化学成分も両者はそっくりで、効果はやや劣るかもしれないが、充分代用薬になったのです。
このように菝葜には、解毒作用があり、化膿性皮膚炎や梅毒、あるいは当時から梅毒治療に用いられた水銀剤の中毒の解毒に用いられました。例えば梅毒治療薬の「香川解毒剤」に配合され、慢性の帯下(おりもの)に使われる「八味帯下方」などにも配合されます。
また若葉はお浸しとして食用になり、五月頃の大葉は関西方面ではあん餅を包む(柏餅)の葉に使われました。またお茶や煙草の葉の代用に使われたそうです
■石斛[セッコク:セキコク:デンドロビウム]
石斛は、単子葉植物のラン科に属し、日本では岩手県以南の本州から四国、九州に分布し、セッコク、キバナノセッコクの2種があります。海外ではインド北部から中国、マレーシア地域、さらにオーストラリア北部や太平洋諸島まで広く分布するランで、岩の上や大木に着生する着生植物です。
薬用にされることから記紀神話の医療神である少彦に因んだ少彦薬根(すくなひこなのくすね)の古名があります。デンドロビウムは、ギリシャ語の「デンドロ(樹木)」と「ビウム(生ずる:生命)」に由来し、野生では樹木や岩に着生していることからの名称。イワグスリ(岩薬)の古名もあります。
単子葉植物といえば、このシリーズで登場済みのユリをはじめ、タマネギやショウガ・ミョウガ、サトイモなど、地上の茎は発達せず、地下茎からいきなり葉柄を出して大型の平行葉脈の葉を出している共通点がありますが、食用になるのはみな地下茎です。
ラン科は、地上に茎を出していますが、この石斛の地上部の茎は節状になっており、ひとつひとつが樽=斛に似ているため、石に付着している樽で石斛。
花や葉を観賞するため栽培され、畑の隣りの「富士見ラン園」でも、石斛を栽培販売しています。葉の変異品が江戸時代より長生(ちょうせいらん)と呼んで栽培されてきましたが、近年は花の美しさも注目されて、濃紅色、紅色、丸弁などの変異品も珍重されて、値段はびっくりするほどですよ。
特徴は、茎が多肉の棒状になって立ち上がることで、主成分の澱粉やアルカロイドなどの薬効成分もこの多肉の茎にあるので、クスリとしては全草あるいは茎を乾燥して用います。
花は、蘭の花としては、比較的特徴の少ない形で、唇弁は他の弁より丸くて大きいだけで、特に変わったところはありません。花が茎の節ごとに短い柄の先に1つづつ着くのがノビル系、茎の先端から長い穂状花序を伸ばすのがファレノプシス系で、これがパーティ会場を飾る胡蝶蘭。このような栽培のための採集によって、野外の個体数は激減し、昭和50年代までは神社の境内の木に大株の見られることもありましたが、現在ではそのようなものはすべて取り尽くされました。
漢方薬としては代表的な補陰薬で、ユリ科の麥門冬などが肺の陰を補うのに対して、石斛は胃の陰を補うとされ、健胃、強壮作用、美声薬にもなり、お茶として飲用もされます。
■<蜂蜜・白蜜・石蜜[蜜乳]>
登場するのが遅すぎたくらい、ハチミツも食品であると同時に主要な漢方薬のひとつです。
2000年前の中国の医書には、常用してもかまわない薬(上品)として、
「味甘平、心腹の邪気、驚、癇、痙を除き、五臓を安んじ気を益し、痛みを止め、毒を解し、百病を除き、百薬を和し、久しく服すれば志を強くする。身を軽くし飢えず老いず」とその効能が書かれています。
さて蜂蜜は、漢方では肺を潤し咳を止め、腸を潤し便秘に、胃の痛み、口内炎、火傷などに使われます。
外用としては何といっても美肌クリーム。
そして何より滋養強壮薬として他の生薬と組んで使われます。いちばん多い使われ方は、漢方薬を飲みやすくする為に味をよくする矯味。八味丸などおなじみの丸剤をつくる時の成型(粉末生薬のつなぎ)。他に、毒のあるトリカブトを蜂蜜で煎じるといった特別な使い方もあります。また潤腸作用をそのまま、まともに発揮させる使い方として、蜂蜜の水分をとばして固形にし、座薬にしてお尻にさし込むという浣腸的な使い方もあります。
■<阿膠(アキョウ)・膠[煮皮]・ゼラチン>
ゼラチンという変性蛋白質で、昔から重要な漢方薬でもありました。
その昔、山東省の東阿県の井戸水で煮つめてできたニカワが良品とされたので、東阿県の阿をとって阿膠(アキョウ)。これが漢方薬としての一般的な呼び方です。
ゼラチンは常温で固体、60°くらいで溶けますから、お菓子をつくるときも、漢方薬として服用するときも、やや温度を下げてから、溶かし込みます。煮沸してしまうとまた成分が変わってしまうので、必ず他の薬草を煎じた鍋を火からおろして、一呼吸してから阿膠を溶かし込んで服用します。
その主成分は蛋白質で、さまざまなアミノ酸に富んでいます。したがって漢方的効能としては、補陰、補血、一口にいえば滋養強壮の作用がつよい。婦人の産後の体力回復とか、慢性病で体力が低下している状態に使います。もうひとつの効能は止血。鼻血から下のほうのお尻の出血まで、いろいろな出血を止めるくすりに配合されます。
動物の皮を煮ることは普通経験できませんが、焼トリの“カワ”なら知っている。プリプリした食感が膠です。煮魚を一晩おくと煮汁が固まって煮凝りができますが、まったく同じもの、膠です。薬になるくらいですから栄養価が高い。アンコウの皮とか、豚足とか、牛スジとかテールとか、そうしたプリプリした膠質はみな健康食品です。気持ちわるがらずおおいに食べましょう。
■<百合[ビャクゴウ・ユリ・ユリ根]>
薬としての百合は、食用よりはやや苦いといっても基本的には同じものを栽培して漢方処方に入れます。
潤肺止咳といって、カラカラに乾いた気道を潤すことによって咳を止める効力があります。ユリ根を食べればわかるように消化がよく滋養にとんでいますから、咳で体力が落ちているときには絶好です。
同じ咳止めで、同じユリ科のアミガサユリの根茎も同じような生薬ですが、これは漢方名貝母(バイモ)といって別に扱います。
■砂糖
砂糖はクスリだ。他の穀物の甘さと違って甘さのみをそれらから純粋に抽出してしまった医薬品・クスリです。毒にも薬にもなるクスリです。ほとんど毒にしかならないクスリです。
■塩
漢方医学では陰陽五行説にのっとって診断治療体系ができていますが、五行のうち五味というと酸・苦・甘・辛・鹹(サン・ク・カン・シン・カン)の五つをいいます。前回の砂糖は三番目のカン(甘)、もちろん漢方医学でいう甘は穀類の自然の甘さです。今回の塩は、最後の鹹でこれもカンと読みます。シオカライという味で腎や骨と関係するとなってます。
肉食動物は、塩分を肉や血液からとれますから塩はそんなに要りません。馬や牛に時々大量の塩水を飲ますように、草食動物や農耕中心の私たちの先祖には塩は不可欠でした。御飯に塩分、野菜に塩分(漬物)は必須なのです。高血圧の原因として塩が敵視されてますが、塩分の摂取量が減ったのは日本人の食生活が動物性蛋白を沢山とるようになったことの表現です。
薬としては2000年前には岩塩を生薬と一緒に煎じた利尿剤の記載があります。現在では外用薬としての塩健康法が話題になっています。現代医学では、生理食塩水として広く使われているのは御承知の通りです。
■<芥 子>
正式に読めばカイシまたはガイシですが、カラシのことで、最近では辛子と書いた方が通りがよいようです。
薬としては、同じ仲間の大根の種子(漢方ではライフクシという)とともに煎じて気管支炎に用います。また、水で練ったものを「芥子泥」といい、冷えると痛む関節や、咳のなかなかひかない長びいた風邪の時には胸や背中に湿布します。面倒臭いし、やぼったいし、皮ふにも強い刺激があって火傷状になりやすいですから最近では敬遠されがちですが、皮ふに直接塗らずにガーゼを何枚か重ねた上から湿布すれば、とても効きます。夜間コホンコホンを繰り返しているお子さんやお年寄りには試して下さい。小麦粉と合わせて薄めて使うとよいでしょう。
■.<わさび>
芥子(からし)と同じくアブラナ科、大根などの仲間です。辛味成分もシニグリンで共通です。辛い大根おろしも同じです。
わさびは、どうも日本特有のものらしく、スパイシーなくすりの多くが漢方薬というように大陸から伝わったものが多いなかでは、ユニークなものです。御存知のように山奥の清流に自生しますが、江戸元禄の頃には日本各地で栽培されました。清冷な水が必要です。
ワサビは「おろし方」に秘訣があることはグルメの皆さんは御存知でしょうが、それは先程も触れた主成分シニグリンが加水分解で辛味成分アリルカラシ油になるときの酵素の働きがおろし方に左右されるからです。葉つきの方から静かにまわしながらおろすのです。ゆっくりしずかに。それから食べるときワサビをしょう油にといてしまうとすぐ辛みが消えてしまうので、刺身にワサビを乗せた状態で食べるのがグルメといわれます(うるさいこっちゃ!)。
薬効はもちろん、芳香健胃剤として胃腸の働きを高めます。刺身の殺菌作用もあるし、漢方的に言えば身体を温めて発汗させる辛温解表薬であります。
芥子と同様すりおろしたワサビを湿布として痛みに使っていましたし、煎じくすりとして、江戸時代には、「をこりにはくすりまじない多けれどワサビを煎じ飲むが妙なり」といわれました。をこりとはマラリア(虐)のような身体のふるえる熱病のことです。
粉ワサビはいわゆる西洋ワサビで、大根と同じように畑で栽培しますが、これも冷と湿が大切で温暖な水はけのよい畑ではとれません。大根と違って種子ではなく根(種イモ)で増やします。里イモやジャガイモと違って種イモは増えたあとでも残ります。これは生姜に似ています。これを粉末にして緑色の色素を加えたものが粉ワサビです。もちろん本物の芳香にはかないませんが、ワサビ漬けなど多くのものに利用されます。
■<桔梗(キキョウ)>
栽培も収穫も、そのあとの乾燥・カットも、とても易しいもので、皆さんも庭で花を楽しんだあと根を収穫し、乾燥して生乾きのとき包丁で刻んでおけば、のどの痛い風邪のとき煎じて服用できます。
漢方的には咳止め、痰切りの薬効があり、日常的によく使われます。また身体の上部に有効なことから、他の生薬を身体の上部に引っぱり上げる作用を期待されて処方に入れられることもあります。
■< 葛(クズ)>
風邪を引くと葛根湯を服用する方がずいぶん増えてきました。葛根湯はいろいろな作用をもち、どんな病気にもバカの一つ覚えで葛根湯を処方する「葛根湯医者」という悪口があったほどです。落語では待合室で待っている付き添いの方にも「ご退屈でしょう、葛根湯をどうぞ!」。その葛根湯の主役が葛根です。この葛根自体が、実際多方面の効能を有するのですが、葛根湯以外の処方に取り入れられることは非常に少ない。例えば人参湯の主役の人参(朝鮮人参)が、他の色々の名前の処方の中にたくさん組み入れられているのとは、対照的で、その点では珍しい生薬です。
葛根は、畑の嫌われ者であると同時に、がけ崩れを防ぐ土手の守護神。あのつよく繁殖力の旺盛なツル性の葛の根です。
■<やまいも[山芋]>
40年くらい前、メキシコ産の山イモから「ステロイドホルモン」が抽出されました。どうしようもない関節リウマチの痛みが一瞬にして解消する夢のクスリとして登場し、その後、合成して広く使われるようになりました。作用もはっきりしていて、なくてはならぬ薬ですが副作用もまた一流なので、やたらに使うクスリでないことは皆さん御承知でしょう。当然山芋にもステロイドと近似した成分が入っているわけで、身体のいろいろな働きを活発にします。副作用がないのが生薬まるごと服用する漢方のいいところ。
こうした働きは古人も昔から気づいており、ヤマイモをカットしてカチカチに干し上げたものを山芋としていろいろな処方に入れています。
いちばん有名なのが八味丸。八味腎気丸ともいって、他の七種のクスリと組んで、腎 (下半身の老化現象)に使われます。下半身が若返れば夜間2回も3回も行くようになる夜間尿が減るし、上半身の白内障や老眼も若返り、遠くなった耳もよく聞こえるようになるというわけで、50過ぎたら八味丸とよくいわれます。現在のように、動物性の蛋白質を豊富に食べられるようになると八味丸の「山芋」の効き目は相対的に低下するのは止むを得ませんが、それでも、50過ぎた方が八味丸を服用はじめると違うなー、と気づくはずです。
■<生 姜 ・ ショウガ>
漢方薬としての生姜はあまりに沢山の処方に組み込まれているので、昔の中国でもずいぶん入手しやすかった、と想像されます。現在でも煎じくすりに使う生姜は、乾燥した市場品よりも近くのスーパーで買ってきて一切れ入れた方がよいようです。あまりにいろいろな処方に入っているので効能を一口でいうのは難しいですが、風邪くすり、胃くすり、漢方的にいうと上半身の水の滞りをさばくといえます。それから漢方薬の処方それ自体の刺激をマイルドにしたり味をよくしたりして服用しやすくする働きも当然あります。
加熱してカチカチにしたものは乾姜(カンキョウ)といって生姜とは大分効能が異なり、附子(ブシ)とともによく使われて身体の冷えを温める作用が強力です。
■<大根・莱身子>
日本では古来「オホネ」と呼ばれ、または春の七草の「スズシロ」という言い方もあります。『本朝食鑑』に「大根は能く穀を消し、痔を除き、吐血鼻血を止め、麺類の毒を消し、魚肉の毒、酒毒、豆腐の毒を消す」とありますが、大根おろしを何にそえて食べるか考えるとすべてなるほどとわかります。そういうわけで大根を食べていれば食あたりはしない、だから、めったに当たらぬ役者は「大根役者」です。葉っぱはもちろん食べてほしいですが、もし多めに手に入ったらよく干してから浴剤に使うと温まってよい。
種子は漢方薬として使われる莱身子です。大根のピリッとした成分から想像されるようにつよく胃腸を刺激して下剤の働きもありますが、炒めて薬性をマイルドにしてから消化剤、鎮咳剤として使われます。
■<蘇葉・蘇子[紫蘇]>
中国南部原産のおなじみの紫蘇。古くから日本でも栽培され古くはイヌエとかノラエと呼ばれ、初めは薬用に、その後、同じく紫蘇科の荏(エゴマ)からとれる油よりも灯油に適しているので室町時代までは種子を灯油を採るために栽培されました。その後、灯油には菜種油が使われるようになり、紫蘇はもっぱら食用に栽培されるようになりました(荏原という地名は、その昔、灯油用に荏が栽培されていた地域の名残ということです)。
蘇という字は、魚と穀物を表わす禾が並んでいて、関係のないものが並んで、スキ間のあること。葉がスキスキについてる草という意味で、そこから、喉のつまりをスキ間をつくって生き返らせることを蘇生というように使われます。
そういうスキ間のあるノビノビと気を巡らすというのが漢方薬としての紫蘇の働きです。一口で言えば芳香健胃剤。
薬用に使われるのは赤紫蘇の方の葉と種子。葉と茎の先端を一緒に乾かして刻んで使います。気を通す芳香健胃剤として食欲増進、毒消しに。また風邪くすりとして他の生薬に配合して使われるときは発汗作用。種子の方は蘇子として喘息など咳の多い症状に使われます。
■<大蒜(たいさん)・にんにく>
西洋の『ギリシャ本草』でも、中国の古医書でも、「皮膚病、毒消し、風邪くすり、消化剤、虫下しなどに使う」とあります。東西とも古代では、強精作用はそんなに強調されず、食べすぎると害がある、と害の方を強調しているのが面白いことです。
意外と知られていないのが「浴剤」としてのニンニクで、一片を適量のお水でよく煮て、その煮汁ごと湯ぶねに入れて下さい。肌はツヤツヤ、よ~く温まり、ちっとも臭くありません。一回あたり一番安価な浴剤だと思います。冬には特におすすめします。
漢方的には「大蒜」といい駆虫剤として用いられますが、漢方薬の一般的な処方に入ることはありません。
■<梅・烏梅(ウバイ)>
梅といえば梅干し。毎日食べるのは健康の秘訣、塩分を気にしたしょっぱくない梅干しなんて梅干しじゃナイ! 風邪にはこの梅干しをお湯に溶いて飲んでもいいし、黒くなるまで焼いてからお湯に溶いてもよい。この黒焼をゴマ油で練って皮膚のおできにつけます。頭痛には梅干しを両コメカミに貼る。「梅干し婆さん」の由来? 今の若い人には通じないかなー。
青い梅といえば私たちはやはり梅酒つくりですね。梅干しも作ってほしいですが、梅酒はもっと簡単ですから若い人たちはお母さんやお祖母さんに今のうちに習っておきましょう。ノンアルコールの砂糖漬けもそのエキスは夏まけにはとてもよく効きます。梅肉エキスは、青梅をすりつぶし、その汁を加熱して(本来は天日で)濃縮したものです。梅肉膏といわれ、江戸時代につくられたもの。日本特有の民間薬で、気つけくすりとして使われたようです。今では料理のスパイスとして、あえものなどに広く使われています。
漢方薬としては烏梅といいますが、梅をまっ黒(烏色)になるまで燻蒸(スモーク)したものなのでその名があります。滞った気を巡らし、熱をさまし、強心作用、さらにはさっき少し述べた制癌作用まであると古書に書いてあります。処方としては烏梅丸が有名で、これは虫下しです。
■<杏仁・杏子(アンズ)>
薬効は、キョーニン水でお馴染みの鎮咳・去痰のほか、便通をよくしたり、利尿剤、下痢止め、等々と広範なため、どんな患者にも杏仁をわたす葛根湯医者ならぬ杏仁医者というコトバもあったくらいです。杏仁をしぼった油成分のキョーニン油は軟膏や化粧品に用いられ、食品としては、アンズ飴(縁日の屋台の水飴)や缶詰や乾しアンズなど。
■< 桂枝・肉桂・シナモン >
桂枝(けいし)は漢方薬用語で、一般には肉桂(ニッケイ)や最近ではシナモンの方が通りがよい。樟脳でおなじみの芳香のある楠(クスノキ)科に属する「桂」の樹皮や根皮をくすりや香料として使います。
くすりとしてのシナモンは、桂皮とか桂枝とか書かれていますが、現在では栽培した桂の枝の皮を細かくカットして使います。桂枝湯という桂枝と他の生薬を組み合わせた薬は漢方処方の原典である「傷寒論」という本の冒頭に出てくる処方で、それが形を変えてあちこちに出てくるので「衆方の祖」といわれます。南方系の桂枝が最重要な薬として多用され、寒冷地でしか獲れない甘草や麻黄とミックスしていろいろな薬に早くから使われているのをみると、古代の交通が想像以上に盛んだったと考えられます。桂枝~湯とか桂枝~丸とか皆さんもよくお耳にすると思いますが、桂枝の働きは広範ですがあえて一口で表現すれば、「気の巡り」を活発にするといえましょう。
■.<薄荷(ハッカ)・ミント・メントール>
シソ科の多年生草であるハッカ(ミント)は、漢方薬としてよりは、むしろ欧米のハーブ、アロマテラピーの世界での方が有名かもしれません。でもガムやメンタムや肩こりにスーッとというハップ剤などを思い出してみればおなじみすぎるくらい日常的に使われているものです。
ハッカといっても各種あり、日本に野生するものは Japanese Mint で、このニホンハッカはメントールの含有量が多く、合成メントールができるまでは日本ハッカが世界中に輸出されていました。このメントールは薄荷脳といわれ1817年に岡山で栽培が開始されたという記録があります。
漢方薬としては、感冒初期の熱さましに、頭痛くすりに、
肝気のうっ滞を動かしてゆく、現代医学的にいえば自律神経の働きをのびやかにするくすりに、顔を真っ赤にしているようなニキビや湿疹のくすりに、といった具合に使われます。どれもこれも、あの「スーッとする感じ」を古人が応用して作っているので、漢方薬というものが、あんまり難しい理屈からできているのではなく、実感的に、「感じる」クスリを組合わせて作っているのだということがよくわかります。
■< 甘草( かんぞう )>
薬効成分はグリチルリチン。加水分解するとおなじみのグロン酸。グリチルリチンは肝臓病に効くというのは、現代医学の疑問の多い常識ですが、グロン酸が疲労回復に効くというのはこれはもうデタラメです。
甘草は日本国内でも栽培が試みられたことがあるし、アニマルファームでもしばらく生かしておいたことがありますが、国内では量産できず、江戸時代では毎年60トン、現代では毎年1万トンくらい輸入しています。大半は、しょう油の甘味やタバコの味つけに使われ、残りが漢方生薬として使われています。
■<はとむぎ[軣苡仁(ヨクイニン)]>
よく似ているのがジュズダマ(漢薬名は川穀)。ジュズダマはその名の通り糸を通してジュズ(数珠)をつくったりして子どもの頃遊んだ記憶があります。
食材、薬材としてのハトムギは軣苡(仁)と呼ばれ、脱穀して白いデンプンのところを使います。このデンプン、ハトムギは「モチ性」で、ジュズダマは「ウルチ性」です。したがってヨードチンキをつぶした粉にかければ、ハトムギは赤に、ジュズダマは青に変化します。
デンプンのほかにタンパク質、脂肪も豊富にあり、脂肪酸の一種がコイキセノライド。これは抗腫瘍作用があり、昔からの「イボとり」の効能を説明します。ニキビや美肌つくりのために石ケンや化粧品に配合されたり。これらの作用は、どうも日本的な使われ方のようで、中国漢方の世界では軣苡仁の効用は主として利湿作用(身体の中のよけいな水分=湿気をとりのぞく)です。したがって関節の腫れ痛みなどに使われる処方によく配合されています。
■<木通(モクツウ)・あけび・山女>
さて漢方薬としては中国では果実を八月札(はちがつさつ)といい種子を薬として用いることもあるようですが、一般には、木通として蔓そのものをカットして使います。蔓を切って片方から吹くと向こうの断端へ空気が通るので「木通」という、とあります。つまり気も血も水も通りやすくするというわけです。同じ蔓性のオオツヅラフジなどと同様、利尿作用が強く、膀胱炎などに使われる方剤に入ります。熱さましの作用としては皮膚科のくすりに、婦人科的には生理不順に、また催乳作用もあります。民間的には、利尿を期待してキササゲと一緒に煎じて服用することもあります。
■<小豆 [あずき・赤小豆]>
くすりとしての使い方は、民間的には、砂糖などを使わずに、小豆を水で煮るだけ。母乳の出をよくしたり、往年の「脚気」(脚のむくみ)に用いられました。あづきをセキショーズとして漢方薬に用いることを知ったのは、漢方をはじめて数年、赤小豆と鯉を煮たものを腹水の貯った患者さんに食べさせてむくみをとったという論文を読んだときです。赤小豆鯉魚湯というそのものの名前のついた方剤です。薬膳に近い方剤ですが、塩も砂糖もなしですからおいしいことはない。珍しい方剤では、胃に入った毒を吐かしてとり除く、吐剤といわれる柿蔕散があります。これは柿蔕(カキの実のヘタ)と赤小豆を粉末にしてまぜたものです。
京都では伝統的に十日にいちどはお赤飯を食べていました。十日間のたまった水分(水毒)をすっきり利尿するためです。上記のように砂糖を入れないで煮たアズキの作用を、ごはんと胡麻塩で生かした生活の知恵です。
■<みかん・陳皮・橘皮>
漢方では陳皮といって今ではこのミカンの皮を使いますが、日本では古くからシラワコージ(白輪柑子)みかんを橘皮として使っていたようです。古く長く乾燥したものの方が良品なので陳(旧)皮と名づけられました。西洋的にいうと苦味健胃剤で、漢方的には水をさばくことに薬効があるとされ、消化剤と去痰剤に使われます。香辛料としては七味唐辛子に入っていたり、冬至の柚子湯など浴剤に。なお、温州みかんよりはやや原種に近い感じのみかんの仲間には、柚子(その仲間には徳島のスダチ、大分のカボスなど)、ダイダイ、カラタチ(唐橘)、きんかん、などがあり、それぞれ食品、香辛料、漢方薬として使われます。
■<米[粳米・コーベイ・うるちまい]>
お米が漢方薬?!って驚かれそうですが、今まで取り上げなかった方がおかしいくらい、米は有名な漢方薬のひとつです。
食品としての米は、いうまでもなく、粳米(うるち米)と、お餅やお赤飯になる糯米(もちごめ)。硬いお米と儒(軟)いお米ですが、乾燥している状態で前者は半透明、後者は白濁しているのは御存知の通り。成分的にはそんなに差はありません。ふだんは粳米を、お好みで玄米から、何分づき、100%白米まで毎日食べてます。待合室に並べてある多くの本の著者として有名な幕内先生が当院の食事指導で推奨してやまないのは、五分づき米です。お米のよさを強調する主張は、以前はこんな風にも書かれています。
「米は五味(酸・苦・甘・辛・鹹)を兼ねたり、故に衆人生涯これに飽く事なし。何ぞ無味淡薄なりといわんや。夫れ米と水を和して制すれば酒となり、辛熱にして酔狂せしめ能く肥満せしむ。醋(酢=酸)に制する時は、剛きをくだき柔せしむ、人を痩せしめ、醴(あま酒=甘)となせばよく温め、長幼を養い、粥となせば鹹(塩)して脾土をかためしむ。炒めれば苦味となる、然れども微々たる苦味、痞硬を排す力乏し、かくの如く、其味異なれば効も亦異なるを察すべし」(昭和4年『医薬随筆集』より)。お米を酒にすれば辛く、酢にすれば酸っぱく、甘酒にすれば甘く、お粥に塩をまぶせば塩からく、おこげは苦い。このように五味そろっているから食品としてはNo.1だし、いろいろな薬効も自ずから備わっているというわけです。お粥のところは少しズルいけれど、まあまあ許しましょう。
とにかく世界にたくさんある穀類の中で、栄養的にも栽培的にも、もっとも優秀な作物が稲作(米作)であることは間違いないでしょう。お米が充分とれないから小麦しかとれない国々では、やむなく牧畜(肉や乳製品)で栄養を補っているのだという幕内説は傾聴に値します。
漢方薬としては、コーベイと呼び、うるち米の玄米を使います。古米の方が良品とされ特に古いものを陳倉米と呼んだりします。
コーベイは、消化吸収能力を向上させ、直接的にはもちろん滋養作用があります。今で言えばブドー糖や栄養の点滴です。血管からではなく口からのですが。他の漢方薬とともに煎じますから、いろいろな薬効成分の入った「重湯」と言ってよいでしょう。
■<膠飴[コウイ・麦芽糖・水飴]>
前回は、粳米、ふつうのうるち米が漢方薬の一種だというおはなし。今回は、糯米(もち米)からつくった水飴も重要な漢方薬だというおはなし。
古書に「糯米、粳米,粟米、蜀粟米、黄精、いずれからでもつくれるが、糯米でつくったものだけが薬になり、他は食用になるだけだ」とあります。どんなデンプンからでも飴はできるが、もち米から作った飴しか薬にはならないというわけです。同じ書には「刑曹進という武将の目に矢が当たり、抜いたら矢尻が残ってしまって鉗子でとろうとしても抜けない。死を待つのみかと嘆いていたところ、夢に古僧があらわれ、米汁を注ぐとよいという。後日、夢の古僧とそっくりの托鉢僧と出会ったので尋ねると、その米汁とは水飴のことだという。そこで膠飴を傷口にぬりつけるとムズムズと痒くなり矢尻が出てき、傷もほどなくなおった」という話を紹介しています。瘡傷の治癒、なおってゆく時、ムズムズするのは皆さん経験しているでしょう。肉の上がりがわるいなんていう場合、このように患部に水飴をすりつけておくのは現代でも立派に通用するでしょう。
さて、これはどうやって作るかというと、もち米をせいろで蒸します。お餅つきのときと同じ「おこわ」を作るのです。蒸し上がったら35°くらいまで、体温程度にまで冷まし、麦芽とまぜます(麦芽とは麦を発芽させ、もやし状になったもの。漢方と畑の師匠であるT先生が大麦を無農薬で栽培し、収穫した麦を発芽させ、もやしにしたものを分けていただきました)。それをさらにぬるいお湯でうすめ、冷めきらないように浴槽に入れて一晩。翌日、どろどろの茶色の濁り水(うす甘い液体)を漉します。これがなかなか大変な作業で、ちょっと大型の遠心分離器が欲しい。漉した液を好みのかたさになるまで煮つめればよいのです。黄褐色のやや赤みを帯びた歯にくっつく、ほのかに甘い懐かしい香りのホンモノの水飴、麦芽糖のできあがりです。それ自身が母乳のかわりになるような総合栄養食品であると同時に消化酵素をたくさん含んでいる素晴しい食品(薬)です。
ですから当然薬効としては胃腸障害、腹痛、時に冷え腹によい。やせ型、胃カイヨウ体質の下痢しやすい方にはうってつけ。そのほか、止咳効果もあります。処方としては建中湯類(中=腹部=を建てなおす薬の仲間)に入っており、他の生薬を煎じてできた湯液に最後にこの飴を溶かして服用します。あったかーい、あまーい感じが大切です。
■< 茶 [お茶・茶葉]>
ツバキ科の常緑樹、お茶の木は、日本の九州地方原産という説もあり、実際、佐賀県嬉野には天然記念物に指定されている「嬉野の大チャノキ」があったり、池袋の「おいしい本物を食べる会のまほろ市場」では、九州のお茶どころ嬉野で完全無農薬のお茶をつくっている大田さんからお茶を仕入れています。
薬としては熱さましに茶花が使われたり、茶葉はやはり神経系に効くということで、頭痛のくすりとして川●茶調散という処方に配合されています。
■<小麦・しょうばく・浮小麦>
ついでに大麦は、パンにはならず、製粉しなくてもそのままゴハンと同じように粒食できます。麦メシ、麦トロなどといいますが、現在ではほとんどが家畜の飼料にまわされます。粒が六列につく六条大麦と二列につく二条大麦があり、二条の方はウィスキーやビール用。コムギ、オオムギより少し野生種に近いのがライ麦。黒パンやウィスキー、ウォッカの原料に。
さて小麦はイネ科の越年草。古書に「秋に播き、冬に長じ、春に秀で、夏に実る。四時(季)の気を具えて、五穀の貴となる。地暖かにして春播きて夏収むるものあり、気足らず」と秋播きの越年型を推奨しています。現在の小麦の発祥地は黒海からカスピ海のオリエントで、紀元前50~60世紀といわれ、オオムギにとってかわって主食の座についたのは、紀元12世紀頃ヨーロッパ全土に小麦の栽培が拡がってからです。その後新大陸アメリカへ、またオーストラリアへ。東方へは中国での小麦栽培は紀元前20世紀には伝わっており、日本へは紀元4~5世紀といわれ、八世紀には水田の裏作としてかなり栽培されていたそうです。
薬用には種子のままか、小麦粉として用いる。水でとぐときに浮き上がる未熟なものを浮小麦(ふしょうばく)といって、焦げるまで炒って粉末にして重湯にして服用する。漢方的には補陰といい、盗汗(ねあせ)などを止めます。子どもの夜泣きなどには、このシリーズにすでに出ている甘草、大棗とまぜて、甘麦大棗湯というおくすりがあります。三つともおいしい食品を三種まぜて精神安定剤になる不思議。
湿布くすりとしては小麦粉を練って、どんな外傷や火傷に湿布してもよい。
■< 大豆・納豆・香し >
漢方薬としての大豆は納豆のことで、香し(こうし)とか豆しとかいいます。塩入りと塩なしと2種類あり、薬用には塩なし納豆の淡しです。古書には「一晩水につけた大豆を蒸してからゴザに広げ、まだ暖かいうちにヨモギの草で被え。3日に一回づつそっと覗いてみて黄衣が上一面に被ったとき、また水を加え瓶の中へ入れ、こんどは桑の葉でふたをして密封しろ。こんな作業を7回くり返すとできる」とあります。植物についている発酵菌を利用したずいぶん手のこんだ納豆づくりです。
■<茄子(ナス)・蔕(へた)>
さて薬としては、漢方薬の処方に組み入れることはないようで、もっぱら民間薬的に古くから使われていました。特にヘタの部分を、黒焼きにして歯槽膿漏や口内炎、歯痛、そのほか毒消しに使われます。そういえば、華岡青洲が乳癌の手術をするときの麻酔薬として使った「朝鮮朝顔」も、ナス科の植物です。
「親の意見とナスビの花は百に一つの無駄もない」といわれるほど、食用から薬用、実・花・ヘタまで使われるナスビですが、この諺の由来は、花が咲いた分だけ残らず実をつけるナスの性質からきているそうで、ほんとに多収穫の便利な野菜です。
■<桑・桑白皮(ソウハクヒ)・桑葉>
養蚕に葉を使用するほかに、桑葉は、お茶として売られています。果実は桑椹(そうたい)といって食用や果実酒に。酒や醤油の醸造にも加えられます。木材は建築、家具、農具、楽器に。内皮の繊維は製紙業に。ちなみに、和紙の原料になる「こうぞ」もクワ科の木です。
漢方薬として、処方に組み込まれるのは根の皮で、これを桑白皮といいます。喘息のくすりなどに配合されます。おもしろいのは金創(刀創、外傷)に用いられる処方に組み入れられる桑白皮には、特に南東方向に伸びた根皮を使うという指定をした古医書があることで、現在でも、使われなくなった桑畑を買いとり、印をつけて、その南東に伸びた根だけを用いて処方を作っているという、古書に忠実な、非常に凝り性の漢方家たちがいます。
■<牡蛎(ぼれい)・蠣[蛎]・牡蛎肉>
漢方的に言うと補陰作用、補血作用がつよいといいます。そうして身体が立ち直ってくると病人はぐっすり眠れるようになります。牡蠣肉を塩水につけて発酵させたものがオイスターソース。私などは大の蛎好きですから、ちょっとした料理にポタッとこれを入れます。何でも一段美味しくなります。
くすりとして主に使うのは身ではなくて殻の方。これを漢方的に牡蛎といいます。雌雄同体の蛎の貝殻をどうして牡蛎というのか、不思議です。塩分を充分洗い流した蛎殻を高温で熱して、貝柱など付着物やよごれをきれいに燃やしてしまったあと、粉砕機できれいな小さな粒にしたものが、生薬として用いる牡蛎です。貝殻ですから主成分は当然カルシウム。鶏のエサに混ぜるのは御存知でしょう。人がその煎じ液を服用すると制酸作用で胃腸がよくなる。また安神作用といって精神安定作用がつよい。竜骨というもうひとつのカルシウムとあわせて、よく用います。病気の種類を問わず、現代人にはとても有効な薬という印象を受けています。
■<カミツレ・菊花・カモミール>
遠く『ギリシャ本草』には「カモミールオイルはあらゆる痛みを除き、四肢の疲れを癒し、緊張しているものを弛緩させ、堅くなっているものを軟らかくする。一切の秘結を散じ、厚いものを薄くする」とあります。
西洋由来のハーブも記述は東洋の漢方とそっくりで、ニュアンスの差こそあれ、施覆花や紅花の薬効と同じです。花を乾燥して煎じたり、精油をしぼって使います。香りが高く、すっきりさせる作用がつよいため、マッサージオイル、浴剤に適してます。特に生理や出産のときの女性の緊張や痛みに最適。香りをいかして、香りランプにカモミール精油をたらしておけば子どもの夜啼きによい。湿布としても傷や湿疹に多用されましたが、あと、アズレンという成分が抽出され(特にジャーマンカモミールに多い)、アズノール軟膏として、今でも皮膚科で湿疹によく使われます。飲む方では上述のような慢性的な痛みなどのほかに、含嗽剤として歯痛、口内炎にとてもよく効きます。欧州の人たちはカモミールを摘んできて自宅で乾燥し、香り豊かなティーとして、熱さましの風邪くすりとして常用しているといいます。香料としてもリキュールなどのお酒やシャンプーリンス液などに使われます。
■< 柿[柿蔕・柿漆・柿餅・柿霜・柿葉]>
漢方の世界でいちばん知られているのは、シャックリ止めの柿蔕。柿の実のヘタです。これを煎じてのむと、シャックリや嘔気が止まります。柿漆(ししつ)、これは柿渋のことで、以前にはこの渋を和紙でつくったウチワや傘などに塗ったもの。現在では日本酒の清澄剤に使われます。主成分はシブオールというタンニンで高血圧や脳卒中後遺症などに使われます。柿霜、これは柿餅(干し柿)の表面の白い粉のこと。これはマンニトールやブドウ糖などの糖類で肺を潤し咳を止めます。柿餅は、ごはんが炊きあがる前にカマの中に入れ、充分むらせてからとり出すと、ベトーッとなっていますからこれをスプーンで小児に与えます。下痢を止めたり胃腸を丈夫にします。柿葉はこれは柿の葉茶として有名ですね。やはり降圧効果があるなどといわれます。まさに、柿の木が一本あれば(渋柿でもよい)医者もまっ青です。
■<鶏子黄[鶏子白・鶏冠血・鶏内金・鶏屎白]>
漢方薬名の鶏子黄は卵の黄身のこと。黄身は前に紹介した阿膠(ゼリー)と似た効がありと書かれてますが、実際生薬を煎じたあと、阿膠と黄身を溶かし込む方剤が有名で、熱で身体が弱ったときに使います。
鶏子白は白身のこと。白身の中にはリゾチームと呼ばれる抗菌物質が多量に含まれるため、火傷や外傷の皮膚の修復に最適。指の爪が化膿した(ひょうそ)の時、生卵に穴を明け、その指を突っ込むというやり方。私は実際やったことがあります。白身につつまれると、化膿した部分がじーんと冷やされ痛みが軽くなった印象が残ってます。
鶏冠血は、トサカからしぼった血。意識不明で倒れている人の顔にベッタリ塗ると意識をとりもどすとあります。
鶏内金は、鶏の胃袋である砂ギモの内膜をはがしたもの。つよい消化剤。何でも消化してしまう鶏の胃袋をそのまま消化剤として用いるという古人のやり方です。
鶏屎白は、ケイシハクだから発音は鶏子白と同じでも、鶏の屎の白いところ。屎とは糞のこと。糞の白いところを集めて日干しをし、酒で煮つめてカリカリにしたものを粉末にして使います。糞を口に入れるのは抵抗があるかもしれないが、身近なところではウグイスの糞などはごく最近まで使われていて美顔剤ですから、そんなに奇異なことではありません。お腹の張ったとき服用する、とあります。
■< 竹[竹葉・竹茹・竹瀝・筍]>
さて漢方薬ですが、ハチク(淡竹)やマダケ(真竹、苦竹ともいう)などが使われます。竹の葉っぱ竹葉(チクヨウ)は熱病後の衰弱した身体の余熱をとりながらさっぱりさせる作用。竹茹(チクジョ)というのは竹の皮をはいだあとの中間層をうすく削りとったものを使います。基本的には竹葉と同じ作用です。竹瀝(チクレキ)は、竹の茎を縦に割って火であぶってジワーッと両端から出てくる液体を集めたもの。採集するのがとても大変ですから貴重品で、これを凝固したものを「天竺黄」といい、脳卒中やひきつけの聖薬とされていました。
■<海藻[マクリ・アヤギヌ・マコンブ・テングサ]>
漢方で薬に用いる海草といえば、まず第一に海藻。発音は同じカイソウ。2千年前の中国の古医書に掲載されていて、日本では江戸時代に、ホンダワラをこれにあてたようです。昔から海のない山間地域では、甲状腺肥大が多く発生し、海藻の有効なことが知られていました。主成分がヨードであることは皆さん御存知。甲状腺ホルモンの成分として全身の代謝に関係しています。
漢方では堅い腫れものを軟らかくして消す作用や、過剰な水分をとる作用があるとされ、甲状腺肥大や結核などの頸部リンパ腺の腫れ、肝硬変の腹水などに用いる方剤に配合されます。
マクリは紅藻類の海人草のこと。生後間もない初乳以前の赤ちゃんに、これを吸わせて胎毒を下す、という習慣が1000年以上前からあったので有名。「まくり」は胎毒を下す薬の一般的な呼称ともなり、この海人草の入っていない「まくり」もあった。最近ではあまり用いないが、アレルギーの時代には見なおされてよいかもしれない。海人草のもうひとつの作用は駆虫作用。江戸時代からアヤギヌ(鷓鴣菜)とともに虫下しとして多用された。ともに主成分はカイニン酸で、ヨモギからつくられる虫下しサントニンとあわせて、カイニン酸サントニンとして用いられています。
コンブはおなじみ昆布科のマコンブ。ようやく食べるクスリになりました。クロメやワカメも用います。食品のダシとしてはうま味成分のグルタミン酸やアラニン。薬としては海帯といい、薬効は海藻とほぼ同じ。
■<独活[ドッカツ・ししウド・羌活]>
江戸時代の外科医の華岡青洲のつくった十味敗毒湯という皮膚のできものをきれいにする処方に独活が入ってますが、これは日本産のウドのことでしょう。薬用部分は根茎です。
中国で独活というとセリ科のししウドのこと。先ほどのを和独活というのにたいしてこちらは唐独活。ウコギ科とセリ科は近縁ですから姿形はそっくりです。いのししが食べるから? ししウド。すっくと独り立って風に揺れないから独活というと古書にあります。また、この草は、風には揺れないで自ら動くというので独揺草というともあります。
根茎を乾燥して処方に入れますが、薬効は青洲の十味敗毒湯のように、体表の熱や毒をとる働きがひとつ。もうひとつ、冒頭に述べた独活寄生湯の場合のように、身体の中の風湿を除き、経絡を通す作用があります。健康な身体では、気血が順調に経絡を巡っているのですが、風湿の邪がそこにとりついて、気血の流れを疎滞すると、腫れたり痛んだりするのだという考え方です。具体的には関節の腫れ痛みによく用い、張瓏英先生は関節リウマチに用いると同時に他の膠原病にもこの処方を応用しました。
近縁の植物に羌活(キョウカツ)と呼ばれる生薬があり、薬効は独活とほぼ同じで、よく同時に処方されますが、羌活の方は、より芳香性がつよい(気の働きがつよい)ということで、上半身の痛みや頭痛のくすりによく配合されます。
■<石榴[せきりゅう・ザクロ・石榴皮]>
ヨーロッパの古医書では、ザクロは根の煮汁は偏平な虫を駆出するとあります。サナダ虫の特効薬というわけです。漢方の世界でも、ザクロの東の方向に伸びた根の皮は回虫やサナダ虫を治すとあります。
漢方薬としては果皮を乾燥してくだいたものを虫下し、下痢止めとして用います。また根皮も上述のように使います。
■<地膚子[じふ・箒木(ホウキギ)・トンブリ]>
中国のもっとも古い生薬の本『神農本草経』では、
「膀胱にこもった熱をとる作用があり、小便の出をよくし、腎の気をます。さらに久服すれば、耳や目が聡明になり身体が軽くなり、老化を防ぐ」とあります。このように中国でも2000年以上前から薬として栽培されていました。この久しく服すれば年をとっても身体が軽く仙人のように不老不死が得られる、という記述は中国古代の神仙思想といいますが、現代人からみて、ナンセンスと言い切れるでしょうか。現代人が不老長寿を夢見て服用している降圧剤や高脂血症治療薬の方が私にはずっと神仙思想にみえます。
ところで種子は薬用、葉は食用となってますが、現在では葉を食べる人はいないでしょう。種子は畑のキャビアなどと呼ぶ、トンブリまたはドンブリのことです。今でも秋田や山形で栽培され、9月頃に小さな果実を収穫して、30分ほど煮てから水にさらすと果皮がとれてトンブリの出来上がり。スーパーや八百屋さんにあります。大根おろしや山芋(とろろいも)といっしょによく食べます。プツプツという食感はキャビアと似ている?
種子を加熱せずそのまま乾燥したものが漢方薬としての地膚子。成分に強壮作用のあるサポニンが含まれているといわれますが、詳しい分析はわかってません。上記のように膀胱炎や排尿障害に効くと同時に、他の利尿薬の効果を高める作用があり、他の利尿剤と合わせてよく使われます。また「皮膚中の熱を去り、皮膚をして潤沢にする、でき物を散ずる」とあり、皮膚科の病気、最近ではアトピー皮膚炎を治す処方によく組み込まれます。
■<酒[白酒・清酒・薬酒]>
酒は百薬の長ではありますが、過ぎれば毒で、古医書には次のようにあります。「少しく飲むときは血を和し気をめぐらし、神を壮にし寒を防ぎ、愁を消し、水臓を暖め、薬勢をめぐらす。過て飲むときは、神を傷り、血を耗し、胃を潰し、怒を発し、……甚しきときは吐血、消渇、労傷を醸し、明を失す。禍をなすこと少なからず、尤も甚しき者は酒によりて国家を亡ぼす。戒め、慎むべし」。
注釈は要らないでしょうが、最後の方の甚しき者は、アルコール中毒は、家を亡ぼす。これは事実ですよね。本人と周囲のものを亡ぼします。
漢方薬としての酒は、文中「気をめぐらせ寒を防ぎ、薬勢をめぐらす」といった効能なら私ともにもすぐ納得できるところです。「薬勢をめぐらす」というのは、冬の晩、空きっ腹に温かいお酒を飲むと五臓六腑にしみわたることを私どもは実感しますが、そのようにお酒で漢方薬を服用したとき、その成分が目的の五臓六腑にしみわたりやすいということでしょう。
漢方薬として「酒」が単独で薬になることはもちろんありません。生薬を酒をふりかけながら炙ってその性質をよりつよめたり、生薬を酒に漬けておいてから丸薬にしたり、薬を酒で煎じて服用したり、丸薬や散剤を酒で飲み下すなどの利用法です。皆さんも、当帰芍薬散を服用する御婦人、八味丸を愛飲している御主人など、できれば少量の日本酒で服用されるとよいでしょう。 一方民間薬的な使い方としては、このシリーズの初めの方に登場した屠蘇酒や梅酒のような「浸薬酒」がいろいろあります。
■<酢[苦酒・ビネガー・木酢・竹酢] >
酢の効能は酢酸による殺菌作用。酢洗い、酢じめ(鮨)、酢づけ(ピックルズ)など御存知の通り。酸味は胃酸の働きを助け食欲増進にもなります。食物中の雑菌を殺しますから、夏には酢の物がいちばん。妊婦が酸っぱいものを欲しがるのもよく知られた事実です。漢方的には酸味は肝と関係が深く、ストレスを和らげてくれます。漢方薬としては、卵の殻の中で、生薬と酢を煎じるという手の込んだ半夏苦酒湯などが知られています。
■< 胡 麻[ゴマ・芝 麻・脂 麻・セ サ ミ]>
黒ゴマは香りがよいのと、黒色は漢方の世界では、先天の元気を養うと尊ばれるので、漢方薬には黒胡麻が使われます。油脂成分ですから滑りやすい。眼を潤したり、便秘の為の下剤にもなります。もちろん、滋養強壮、若返り(白髪が黒くなったり)作用が中心です。
白ゴマは油脂成分がこの三者ではいちばん多いので、そのまま食べるのはもちろん、蒸してから圧搾してゴマ油をとります。料理に使う他、軟膏の基剤として使いますが、皆さんもよく使う「紫雲膏」に使われるので有名です。
黄金ゴマは生産の少ない高級食品。
■< イ チ ジ ク [無花果(むかか)・無花果葉]>
食品としては日本のように生食の他、地中海地方の乾しイチジクは有名で、栄養豊かでやや緩下作用があります。薬としてはやはり秋によく熟した実を天日で乾かしたものを無花果。夏に葉を採取してよく乾かしたものを無花果葉。無花果は「胃を開き病毒を解す、五痔、咽痛を治す」とありますが、胃腸の調子を整えたり、咽喉の痛みに煎じくすりとして。葉の方はやはり煎じて痔の外用浴剤としてよく使いますし、普通に入浴剤としても使われます。いずれも漢方処方に組み入れられることはなく、単独で民間薬的に使います。
■<枇杷(ビワ)[枇杷葉・枇杷仁] >
漢方では、主として気管支炎や鼻炎、蓄膿症に使われる処方に配合されます。また、禅寺に伝わる難病を治すという民間療法は、枇杷の葉を患部に押し当てるというもので、難病に枇杷の「枇杷ブーム」が周期的にくるようです。
■<胡桃仁(ことうじん)[クルミ・胡桃青皮・分心木]>
青い皮肉は(胡桃青皮)は下痢止めに、すりおろして水虫の外用薬に。熟してきたら、ちょうどギンナンのように果肉を洗い落とすとあの堅い殻です。年寄りが手掌に握ってもてあそんでいると脳卒中の予防やリハビリになるといってましたネ。最近そういう年寄りを見かけなくなりました。私の小さい頃は、クルミ割りや金槌で割ってよく食べたものでしたが最近はビールのつまみのナッツ類の中の破片としかお目にかかりません。殻をうまく割ると中のあの脳の形そっくりの種仁・胡桃仁がまるごとでてきます。殻の内側の薄い隔壁のことを分心木(ブンシンボク)。これは渋味を利用して、頻尿や帯下を止める薬(固渋薬)になります。
さて可食部分のナッツ胡桃仁ですが、もちろん木の実としてクリなどとともに日本人を支えてきた重要な食品。ただし、クリなどに比べるとデンプンが少なく脂が多すぎてしつこいですから、こればかりで主食とはいきません。
その分クスリにはなるわけで、何といっても豊富な脂肪油(リノール酸)が滋養強壮に。形象薬理といって、形から連想すれば、いかにも脳細胞を活性化しそう。体力の落ちたお年寄りのしつこい咳や痰に、体力をつけつつ症状をとっていく処方に配合されます。また、油成分が多いから潤す作用があり便秘などにも使われます。
■扁桃[巴旦杏仁(はたんきょうにん)・アーモンド]
杏仁に、苦甘、二種あって、それぞれ薬用、食用になるように、巴旦杏仁にも、苦味のつよい苦扁桃と甘くておいしい甘扁桃があります。後者がアーモンドです。前者が薬用になるのですが、日本や中国ではほとんど杏仁を使いますからわざわざ苦扁桃を使いませんが、ヨーロッパでは古くから苦扁桃水をつくって鎮咳剤につかっていました。杏仁水とほぼ同じものです。
■< 蓮肉[石蓮子・荷葉・藕節・レンコン]>
食品になる蓮根は泥土のなかを横走している地下茎。そのレンコンのくびれた節の所を藕節(ぐうせつ)。生薬として、または炭化して止血に用い、生汁を咳止めに使う。レンコンをすって胸に湿布したことがありませんか。荷葉(かよう)はハスの葉で、解暑といって、暑気あたりや熱病後にいつまでも身熱がつづき身体がだるいときに用います。この葉にモチ米をくるみ蒸したものが蓮飯。煮汁で米をたいたものが蓮葉粥。蓮子は先述の蜂の巣のような花托の穴につまっている堅い実、石のように重いので石蓮子ともいう。この実の堅い殻を除いた中にある大型の種子のことを蓮肉。蓮子粥として食べた方も多いでしょう。薬効としては、安神、補腎、固渋といって、精神を落ち着かせ、下半身の力をつけて、下痢、頻尿、帯下などを止める働きがあります。
■< 唐辛子[辣椒・蕃椒・トウガラシ]>
外用薬としては、トウガラシを刻みホワイトリカーに漬けておいたものを布でこせば、トウガラシチンキの出来上がり。痛いところ、冷えて困るところに湿布します。最近の暖める湿布薬にもたいていこのチンキが入ってますが、日本の民間薬として有名なのは糾勵根(キューレーコン)という湿布薬。トウガラシの他10種類の生薬を混ぜた薬で、これを水で練って患部に貼ると実に効果的です。外傷ばかりでなく咳のとまらない時、胸に湿布するとよい。当院にもずっと常備して患者さんに勧めるのですが、手間がかかるためか最近の皆さんは使ってくれませんね。
■< 紅花[こうか・べにばな・臙脂花(えんじか)]>
花弁の色の薬効について、幕末の漢方家、森立之は「凡そ、紅花紫のものは血分に走り清熱の功あり」と書いていますが、紅花は血をきれいにして熱を清ます効果がありますので、いわゆる悪血をとる処方にたくさん組み込まれています。
■<菊花[黄甘菊・杭菊花・野菊花]>
漢方では、さっきのお土産のように杭州の菊が有名で「杭菊花」として輸入されています。風邪くすりの「桑菊飲」や、お歳よりの視力低下などに使う「杞菊地黄丸」などに配合されます。「紫式部日記」には菊の着せ綿が登場しますが、これも紅花と同様、菊花で染めた衣服を着ることが厄よけや不老長寿につながるという薬用の使われ方。枕のなかに菊花をいれる安眠のための薬枕としても使われます。
■< タンポポ[蒲公英・蕗たんぽぽ・款冬花]>
漢方薬としては蒲公英(ホコウエイ)といい、花の咲く前にあの深いゴボウのような根ごと収穫し、根も葉も全草を乾燥してカットして使います。
古書には「食毒を解し、滞気を散じ、熱毒を化し、悪腫を消す」とありますが、全体に炎症をとめ、熱を下げ、腫れ物を治すという感じです。とくに日本や中国では乳腺炎をなおし、乳の出をよくする為の薬として用いられてきました。
食用としては日本でも葉を江戸時代には栽培していたようですが、今では根を煎ったタンポポコーヒーがカフェインレスで、しかも目や頭をすっきりする健康飲料として流行ってます。
蕗(フキ)タンポポはやはり菊科で似た植物ですが別物でこちらは、肺の炎症、咳を止める処方に款冬花(カントウカ)という名で配合されます。
■<山査子(サンザシ)[野山査・南山査,北山査]>
果実の成分はいろいろ分析されてますが、血管拡張、強心作用などが知られ、これらはヨーロッパでセイヨウサンザシが強心薬として使われている根拠です。成分のひとつクラテゴール酸には胃液分泌を促進する作用が知られていますが、これは漢方で山査子といえば消化剤といわれる根拠です。
実際には秋、完熟直前の果実を収穫し、種ごと潰して干燥したものを煎じて服用します。炒って使用する山査を炒山査といい、ほかの強力な消化剤、焦麦芽、焦神麹とあわせて「焦三仙」と呼ばれ、さらに焦梹榔をあわせると「焦四仙」といい、漢方薬に配合される強力な消化剤ユニットになっています。不老長寿の仙人の仙がつくほどよく効くというわけです。とくに肉や脂っこいものの消化をたすけますから、中華料理のあとにはいいわけです。また黒焼きにしたものを山査炭といい、これは下利や出血を止める作用があります。
■<たらの木[朷木皮・ソウモクヒ・タラ木皮・タラ根皮]>
ウコギは漢方薬、薬用酒として有名な五加皮(ゴカヒ)、中国語の音でウージャーピーの音訳です。五加皮の根皮は一般に下半身の衰えやリウマチなど関節の腫れ痛みに効きますが、薬用酒が有名なのは、おなじウコギ科の朝鮮人参が意識されてのことでしょう。
さて漢方薬としてのタラの木は、タラ木皮、タラ根皮と呼ばれ、中国での朷木白皮、朷木根皮などに相当します。日本ではタラ根湯が糖尿病に効果あるといわれ、民間薬として使われてきました。朷木皮は先述のほかのウコギ科の生薬同様、リウマチなどの関節痛につかわれますが、若返り、強壮作用や精神の安定をはかる安神作用なども知られています。
■<落花生[地豆・ピーナッツ・南京豆・長生果]>
脂肪50%、タンパク質25%、その他ヴィタミンB、Eなど栄養抜群。搾った油は落花生油でオレイン酸とリノール酸にとむ良質の植物油。薬理作用を発揮するサポニンは、特にあの薄皮におおく含まれ、血液の出血傾向を調節するといわれ、中国では血友病や紫斑病の注射液が落花生の皮からつくられています。民間では豊富な栄養から乳汁不足などに、油は外傷火傷に使われます。中国の古書には「花がおわる時にはその中心に糸があって垂れて地に入って実を結ぶ。故に落花生、または落地生となづく。ナマでけずって食せば痰や咳を治す、炒めて食せば胃を開き腸をうるおす」とあります。おすすめは酢ピーナッツ。薄皮ごと酢につけて数個ずつ食べると、疲労回復、これからの梅雨をのりきるのにおすすめ。
■< 南蛮毛[玉蜀黍・玉米鬚・コーンシルク]>
民間薬としてよく知られている、トウモロコシの鬚のことです。イネ科の一年生草。
トウモロコシの最大の消費は家畜の飼料。食用としては、デンプン(コーンスターチ)をさまざまに用いますが、薬剤の賦形薬にもなります。コーンオイルは食品の他、薬では軟膏の基材になります。さてコーンシルクですが、むしりとって乾燥したものは煎じて、欧米でも古くから利尿剤、利胆剤としてつかわれていました。中国でもこれを調合した新しい方剤があります。日本でもスイカなどとともに、利尿剤として腎炎などの浮腫に民間薬としてつかわれています。
■<スイカ[西瓜・水瓜・西瓜糖]>
薬効は「渇をとめ、暑を解し、酒を解し、小水を利する」といわれる。実感された方も多いでしょう。漢方薬には、皮を用いた「西瓜翠衣」が清暑益気湯という先ほどの薬効そのままの名前の処方に組み込まれています。果汁を煮詰めたものは「西瓜糖」と呼ばれ利尿作用がありますから、腎炎などの浮腫に使われます。
■<麹[こうじ・糀・神麹・六曲・六神曲]>
米のデンプンを糖化して飴(アメ)を作り、その糖分を発酵させて酢や酒を造る(すでにこのシリーズに米も飴も酢も酒も登場済み)。その発酵のとき活躍するのが麹。先日所用で北海道に行き、美味しい麹漬けを頂戴したので、このシリーズにまだ登場していなかったと思いつきました。炊きあがった米や麦を30度くらいに冷まし、麹菌という黴の一種を混ぜて繁殖させたもの。昔は中国の古医書に「米や麦をつき砕いて茹で汁などで団子にし、楮葉に包んで風の当たるところに49日かけておけばできあがる」とあるように、自然の発酵菌で長時間かけて作っていた。このように団子状のものと、日本の麹のようにばらばらの米を発酵させたものと2種類ある。作用別の分類では、ここで述べているようにデンプンを発酵させる力の強い麹で酢や酒を造り、一方タンパク質を発酵させるに適した麹では味噌やチーズを造る。
麹を作るとき室(むろ)に寝かした米に黄色の黴で花が咲いたように見えるから米の花「糀」とも書く。「麹」という字は改めてよく見ると、「麦」と「米」が、自然の発酵菌が豊富に付着している葉や藁などに「包」まれて発酵している様子をそのまま字にしたもの。だから米だけから作るコウジは米麹だし、麦だけから作るコウジは麦麹と区別する。素人が麹をつくるのは難しいので、麹屋さんから買って来て味噌などを造る。当院で作っている味噌は麦粒が残っている方が好きなので麦麹を使うことが多い。一般にはただ麹といえば米のほうを指すことが多いようだ。これなしでお酒は造れないから「酒母」ともいう。
古医書に「昔の人は麹を用いるのに多くは酒造りに使った。後になって医者が神麹を造りもっぱら薬として用いた」とあるように、薬としての麹は一般の麹とはすこし異なる。薬には必ずある種の信仰、神仙思想などがともなうから、「諸神、聚会の日にこれを造る」とあり、ここから薬としての麹を神麹(しんきく)という。
薬としての麹は他に六曲ともいい、これはもともと6種の植物を入れて造った麹という意味。青蒿・蒼耳・野蓼・杏仁・赤小豆などの生薬の細粉に米や麦を混ぜて長時間かけて発酵させたもの。効能はもちろん消化の促進。早い話がエビオスのことです(若い人はエビオスを知らない?)。どちらかといえば麹は炭水化物の消化が得意で、タンパク質の消化を促進する山査子(これもすでに登場済み)と合わせた漢方薬も有名です。
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